===幻の遊園地(ね●ゅみ〜ランド)プロローグ===


「・・・はあ。『ゴールデンウィーク』・・・ですか?」
少々間の抜けた声と共に、男は少年に聞き返した。

「そう!・・・だから、ね?」
日の光がいっぱい入る綺麗な書斎。壁には一面にぎっしりと本棚が連なり、男の座る机の上にも、何やら書類が散ばっている。
そんな中、赤毛の末っ子『赤鈴』ことトム少年は、座っている相手に力説していた。

「―――――・・・何処かに、遊びに連れて行け、と・・・?ん〜…しかし…」
黒髪の男は苦笑いを浮かべながら、手元の書類の束を軽く叩く。
「私がコレを片付けず、いったい誰がして下さるのでしょう?」
品の良い言葉が、男の口から歌のように流れ落ちる。
少し疲れた顔で椅子の背に寄り掛かり、眼鏡を静かに外した。黄金色の瞳が、真っ直ぐに弟の姿を映し出す。


「あ・・・ん・・・。え〜…と…」

「先日の花見会場での、乱闘の被害届け。プレハブ(天井)の修理代。・・・他にもバーでの窃盗、飲み逃げ、など…始末書が山のように来ているのですよ?」
「頭が痛くなりそうです…」と、溜息を落とし、顔に掛かる黒髪をかき上げる。

自分と同じ色をした、兄の切れ長な瞳を見詰め、トムは小さく言葉を吐いた。
「―――――・・・・ごめん・・・なさい…」
「…っ!?」

瞬間、失言に気が付き口に手をやったが遅かった。目の前の弟が、徐々に勢いを無くして行く。
「・・・本当なら、俺がしないといけない仕事なのに…」
もし少年に犬のような耳と尻尾が在ったなら・・・パッタリと下がって、震えている事だろう・・・

「いや!誤解です!!っ・・・」
慌てて弁解に入ろうとするが、弟の頭は一向に上がってこない。
「・・・・・でも、仕事のせいで黒兄は部屋に缶詰め状態だって…緑兄が…(ボソボソ)」

(・・・あの男、一度口を布団針で縫い合わせてやろうか)
心の中で、二つ下の弟の姿を思い出し、眼鏡を持った手に力がこもる。

「・・・・・・・・・・・・・・」
下を向いたまま顔を上げない弟に、男は急いで席を立ち、駆け寄った。
「赤・・・貴方のせいでは無いのですよ?これは、私が勝手に・・・っつ!?」

バササササ・・・

慌てた拍子に、机の上に有った書類が床に散らばる。
少年と男の間に、白い絨毯が出来上がっていた・・・

「〜〜〜〜〜〜〜(こんな時に!)」

心の中で自分を叱咤し、男は急いで書類を拾おうと手を伸ばし。

「・・・!」

動きを止めた。

「・・・赤鈴。先ほど、何処かに遊びに行きたいと…仰いましたね?」
書類の間に見え隠れする、小さな封筒を長い指で拾い上げる。
「え?・・・・あ、うん…」
不意を突かれ、思わず少年は顔を上げた。いつの間に移動したのか、黒髪の兄が目の前で微笑んで見下ろしている。

「例えば何処へ行きたいのですか?」
「え?そりゃ〜・・・映画とか、買い物とか、旅行とか…遊園地とか?」

ふと、最後の言葉に男の眉が一瞬動いたのを、少年は見逃していた。
「そうですか…では…」

黒髪の兄は封筒の中身を広げると、弟の鼻先に突き出し・・・
「遊園地に行ってらっしゃい」

極上の笑みで送り出した。


「いや!!!ほ〜〜〜〜〜いい!!遊園地だーーーーーーー!!!」

晴れ渡る青空の下。少年の叫び声が響いた。ばたばた走る度、腰の刀が悲鳴を上げる。

「これ、末。その様の走っては怪我をするぞ?」
背中から掛かった優しい声に、漸くトムは足を止めた。
「だってだってだって!紫姉!!遊園地なんて初めてだよ?く〜〜〜!!!」

再び辺りを走り回る弟に、藤色の髪をした姉が優しく見守る。
長い髪を靡かせながら、音も立てずに上品に後を歩く。

「良かったのう、末。・・・しかし・・・・・・・・・」
にっこり微笑みを浮かべ、弟の横に並ぶと。素早く扇で顔を隠し、別人の様な声色で忌々しげに後ろを振り返った。

「何故に、兄者が一緒なのかえ?」
「・・・・・・・・・・俺が訊きてーよ」

眉間に深々と皺を寄せ、着流し姿の男がのろのろと付いて来る。
白銀の無造作な髪。先端のみ黒く模様の入った猫(虎)耳。着物の裾から見え隠れする縞模様の尻尾。都夢家の長男。『白鈴』その人である・・・

「・・・黒の奴、珍しく人の部屋に入って来たと思えば…「休日だからと言ってゴロゴロされては不愉快です。少しは弟を見習ったら如何ですか?」とか、抜かしやがる!お前こそ、少しは兄の有難味を知れてーの!!」

鋭い牙を剥き出しにして怒り狂う兄に、藤髪の少女はポツリと呟いた。
「・・・兄者の何を有難めば良いのか・・・?」


兄弟を送り出し、黒髪の男は部屋へと舞戻った。
引き出しに入れた例の封筒を取り出し、中身の折皺を手で擦って伸ばしてゆく。

『イベント企画書』

椅子に座ると、ペンにインクを付け、タイトルの下に書かれた『テーマ』の部分に筆を走らせた。

『テーマ:幻の・・・』

ふと、一旦筆を止め、数秒間悩み込むと。
『・・・ねじゅみ〜ランド』と書き込み、また数秒考え直して。「じ」の文字を黒く塗りつぶした。
続いて『管理者』の欄に、『都夢 赤鈴・白鈴』そして、藤色の髪をした妹の名前を記入した。『紫鈴』と・・・



      
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送